
人生は簡単ではありません。思い通りにいかないことの方が多いでしょう。時に裏切られ、時に騙されることもあるかもしれません。
ですがその中でも、ハルオサンの半生はなかなか壮絶です。幼い頃からの夢であった警察官になることができたと思ったらクビになり、その後、幾多のブラック企業やブラックな職場を渡り歩きます。
「天国に一番近い会社に勤めていた話」では、その壮絶なハルオサンの半生が描かれています。そこに描かれているのは、本当にヤバイ職場の物語です。
ハルオサンの話になぜこれほどひかれるのかというのは、苦しい生い立ちや壮絶な過去から立ち上がってきたから、というだけではありません。不幸なだけなら、もっとたくさんの不幸が降りかかった人もいるでしょう…。(いや…ハルオサンほどの人は滅多にいないと思いますが…。)
一番重要なのは、周りの人たちにこれほどまでに裏切られたり、いいように利用されたとしても、ハルオサン自身が悪に染まり、周りを利用したり貶めたりするようになることなく、自分の中で思いやりや正義を持ち続けたことです。
それを時におもしろおかしく、かわいくてユニークなイラストとともに描かれていることが唯一無二なのです。そもそも話が本当に面白い!特にイラストは秀逸で私はすごく好きですし、美術作品としてみても完成度が高いと思っています。
ハルオサンの本には、登場人物のようにあらゆる欲望や虚栄心によって、悪に染まっても手に入れようとする富や快楽ではなく、それでは測ることができない人間の本当の価値が描かれています。(もちろん富(お金)には良いも悪いもなく、それに関わる人間の心に善悪があるのですが)
ここで私自身を振り返ってみても、受験に二度失敗してしまった時は他人を思いやる余裕などなくなってしまっていましたし、多少強引でも周りを押しのけてでも我を通そうと考えていた時期もありました。大した挫折でもないのに、そのように周りが見えなくなってしまっていたのです。
ハルオサンの本にでてくる登場人物たちは、ハルオサンを含めみんな完璧な人間ではありません。サクセスストーリーの登場人物ではないのです。(もちろん私も)
ですがその中で、「憎むべき人」と「応援したいと思える人」が分かれます。その違いは何かと言えば、それは相手を貶めたり利用したりする人ではなく、相手や周りを思うことができる人が「応援したいと思える人」なのではないかな、と思うのです。
そんなことを気がつかせてくれる一冊でした。読み終わった後は何か頭にかすかな電流が走ったような不思議な感覚でした。「天国に一番近い会社に勤めていた話」。みなさんにぜひ一度手にとって読んで欲しい本です。

トキトマデザイン

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