まるでハロウィンのような七夕。「ローソクもらい」の思い出

子どもの頃に楽しみにしていた年中行事といえば、お正月やクリスマスなどを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。私にとっては七夕もその一つ。お正月やクリスマスと同じくらい、待ち遠しくてたまらないイベントでした。

「なんで七夕?」「笹飾りを飾るだけでは?」と思うかもしれませんが、私が生まれ育った地域では、七夕の夜は子どもにとって、特別な夜。年に一度の「ローソクもらい」の夜なのです。

「ローソクもらい」とは、北海道の一部地域で七夕の夜に行われる行事。子どもたちがグループになって「ローソクをくれなきゃいたずらするぞ」といった内容の歌を歌いながら、家々を訪ねて歩きます。ずっと昔は、浴衣姿に提灯を下げて回ったそうですが、私が子どもの頃には洋服で提灯を持たずに回っていました。「ローソクもらい」とはいうものの、今では基本的にローソクではなくて、お菓子をくれる家がほとんどです。

まるでハロウィンのような行事ですが、実はハロウィンが日本に浸透するずっと前から行われていました。歌うだけで、どっさりお菓子がもらえるとあって、子どもたちにとっては一大イベント。自分の足で色々な家を回って手に入れたお菓子は、たとえ小さなチョコ一つでもとってもおいしく感じたのを覚えています。夕暮れ時の街を歩きながら、ほおばるお菓子は本当に特別な味がしました。

この「ローソクもらい」にはいくつかのルールがありました。

  • ローソクもらいに行けるのは小学生だけであること
  • 1人で行かずに必ず友達と行くこと
  • 17時からスタートして18時までには必ず家に帰ること
  • お金は受け取らないこと
  • もらったものに文句を言わないこと

などなど、かなり細かいルールがあり、学校から各家庭にプリントが配られるなど徹底されていたのをよく覚えています。子どもたちはこのルールにのっとり、どれだけお菓子をたくさんもらうか競い合ったものです。

私もこの「ローソクもらい」が大好きで、1週間前から仲の良い友達と手づくりの地図を片手に計画を練りました。気前よくお菓子をどっさりもらえる家や効率的なエリアなどをくまなくチェックして、できるだけたくさんお菓子をもらえるコースを考えていました。子どもたちの「ローソクもらい」に対する情熱はハンパなく、「大物」をくれる家にお菓子がなくなる前に到達するために、高度な作戦が繰り広げられていたものです。

小学校6年間行き続けた「ローソクもらい」は、どれも特別な思い出ですが、なかでも特に印象に残ったエピソードを2つご紹介します。

町はずれのおばあちゃんの家

小3の時の「ローソクもらい」で、グループみんなが方向音痴だったことがあります。夢中になってお菓子をもらい歩いているうちに、町の外れ、普段はほとんど行くことのない場所に出てしまいました。「ローソクもらい」には制限時間があります。元のルートに戻るのは諦めて、とりあえず近くの家をかたっぱしから訪ねることにしました。

3軒めか4軒めだったでしょうか。小さなしわくちゃなおばあちゃんが、よろよろと玄関で迎えてくれました。しゃがれた声で「珍しいね」などと言っていたと思います。今思えば、私の住んでいた街はどんどん人口が減っていました。きっと町はずれのその家に、「ローソクもらい」にやってくる子どもはほとんどいなかったのでしょう。

私たちが歌を歌うと、目を細めて聞いていました。歌い終わると、まんじゅうとおせんべい、麩菓子。小学生に渡すにしては渋いお菓子とローソクをくれました。帰る時に「また来てね」と言ってくれたおばあちゃん。あのしわくちゃな手を思い出すと、時代がどんなに変わっても「ローソクもらい」が続くと良いなと思います。

カップ麺をくれたお姉さん

小学校6年生の頃、家の近くの小さなアパートに行った時のことです。ある家のドアを叩くと、20歳くらいの若いお姉さんが出て来て、きょとんとした顔で私たちを見ています。「ローソクください」とお願いすると、「どうしてローソクが欲しいの?」と聞かれました。

それもそのはず。「ローソクもらい」は私たちの地域では当たり前でも、他の地域から来た人には何のことか分かりません。きっとお姉さんはどこかから越してきたのでしょう。いきなり見ず知らずの子どもの集団が押しかけてきて、ローソクを要求する事態に戸惑ったのだと思います。

それでも辛抱強く私たちの話を聞いて、「ちょっと待って」と部屋に引っ込むと、なぜか1人1人にカップ麺をくれました。他に渡せるようなものがなかったのかもしれません。多分、お姉さんが自分用に買い置きしていたであろうカップ麺。七夕になると、それをくれたお姉さんの優しさを思い出します。

実家が遠くに引っ越してしまい、私も本州へ。「ローソクもらい」でお菓子をあげる側になることも、多分もうないと思います。それでも、毎年七夕の季節になると、わくわくした気分になるのは「ローソクもらい」の思い出があるから。お菓子をもらった時のあの嬉しさ、他では味わえない気持ちだったなと思うのです。

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川瀬ゆう

川瀬ゆう

ゆるめの毎日を送るライター。かわうそとお出かけが生きがい。
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