パリノートルダム大聖堂火災の悲劇に隠された真実

花の都パリの歴史と共に町を見守ってきたシンボルであり、観光の目玉でもあるパリのノートルダム大聖堂が、今年4月大規模な火災に見舞われ、貴重な歴史建造物の大部分を失いました。その歴史的悲劇はフランス国内だけでなく世界の人々にも衝撃と悲しみをもたらしました。出火原因、消火活動、修復展望など、様々な憶測や噂が飛び交いますが、その真実を検証しながらご紹介してまいります。

パリノートルダム大聖堂の歴史と豆知識

1163年に 着工が始まり1225年に完成したパリのノートルダム大聖堂は、実は1789年のフランス革命の時代にも、宗教批判の市民らによって大々的に破壊されています。19世紀に修復された後、1991年にはユネスコの世界遺産に登録され、2013年に着工850周年を記念して、650万ユーロ(約7億円)もの寄付金を投じて、大々的な改修工事が完成したばかりでした。

消防士の活躍と噂

4月15日午後6時50分頃堂内で出火、瞬時に屋根まで燃え広がり屋根と屋根を支える歴史建造物でもあった骨組みを失いました。燃え盛るノートルダム寺院をTVの生中継で見ていた私は、「消防活動が見えないけど、消防士は何してるの」と焦りと衝撃で身を震わせて見守っていました。
実は消防士がまず行ったことは、消火活動は勿論ですが、なんといっても歴史文化財の避難でした。司教関係者らと400人の消防隊員による迅速な連携リレーで、ほとんどの貴重な文化財が救出されました。中にはキリストがゴルゴダの丘で処刑された時につけていた「いばらの冠」もありました。
それでも高さと貴重な歴史建造物であるため、消火活動は困難を極め、建物のシンボルでもあった尖塔が崩れる瞬間は悲劇の象徴でもあり、この瞬間多くのフランス人が嗚咽と涙に包まれました。

素人の私だけでなく多くの人が思った、「何故空中消火しないの?」という疑問は、あのドナルド・トランプ米大統領もツイッターで発言し、その素人感覚に「フランス消防当局は『笑える』などと一笑に付した」と日本で報道されました。空中消火ではさらなる崩壊を招き、繊細な文化財を傷めるためNGであることは明白なのですが、この報道で翻訳された「笑える」というニュアンスはいささか語弊があります。
「笑える」という表現はフランス語のニュアンスで「苦笑」「冗談でしょ」「まさか」の意味も含みます。この消防当局も素人見解に苦笑したのでしょうが、感謝の念がないわけではありません。ただ、外部の素人が「上から指示」的に言葉を発したことを一笑しているのです。トランプのお見舞いメッセージはフランスでもTV報道され温かい言葉にフランス人は感謝しています。

 

出火原因と噂

出火から約15時間後に鎮火した火災の出火原因は、過失、事故、放火、テロなど幾つかの可能性が挙がりましたが、出火時間が人出の多い明るい夕方だったため、人目に付きやすい放火やテロの可能性はほぼないとされています。
現時点では改修工事を請負っていた「ル・ブラ・フレール」社を含む5社の専門業者の、幾つかの不始末からくる事故が指摘されています。その不始末とは

  1. 業者の数人が現場で喫煙しており、その吸い殻が残っていた
  2. 通常2人で24時間体制の警備が義務付けられているが、実際は1人が朝8時~23時までの監視体制だった
  3. 電気配線が防火上禁止区域だった屋根の木造骨格部分を通過していた
  4.  1回目の警報の後、係員の誤った指示で屋根部分を見回り、消防への通報が遅れた

などが挙げられています。
ただ、工事会社は全てを否定しており、調査はまだ続行中で、真実が判明するのはまだ先のようです。1954年設立されたル・ブラ・フレール社は、著名な歴史的建造物の修復の実績を誇るフランスの家族経営の会社で、「作業員は外人出稼ぎ労働者ではなく、すべてフランス人である」ことを誇りにしていたようですが、フランス人だからこその「怠慢と油断」がなかったとは言い切れません。

改修工事と未来

↑火災後、屋根を焼失したノートルダム大聖堂

 

あれほどの業火に見舞われながら、2つの塔を残し崩壊しなかったのは不幸中の幸いでした。崩落した尖塔には国宝級の16人の聖人像が設置されていましたが、偶然にも火災4日前に取り外されて無事でした。パリジャンたちは、この聖人たちが火災を最小限に防いでくれた、と信じる人も多いようです。
この歴史的大惨事に、フランス国内から早速寄付金が集まり、ルイ・ヴィトンを傘下に持つアルノー氏やグッチを傘化に持つピノー氏などの富裕層などから800億円近くの寄付の申し出の他、世界から寄せられた寄付金は1200億円超えとも言われています。しかし、仏政府の発表によると、実際にはこれらの金額は政府はまだ受け取っておらず、段階ごとに寄付されていくようです。
再建案には社会一新を図って革新的なデザインを提唱するマクロン大統領と、伝統的なデザインの復元を望む文化人や一般市民との間で対立もあり、今後長い年月の苦難の道が待ち構えていますが、ノートルダム(=我らの貴婦人)である大聖堂の復興を望む気持ちは皆同じです。移民・失業・テロなど、多くの問題を抱える現在のフランスにとって、今回の「破壊」が新たなフランス国家の「建設と再生」に向かって、国民の魂が一致団結できる機会となってほしいと、希望と期待が膨らんでいます。

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エリカ・ド・ラ・シャルモント

エリカ・ド・ラ・シャルモント

英国在住後、フランスのパリに在住。 公職以外に、翻訳・通訳・コーディネーター・ライターの他、 不動産業も手掛け、フランスの雑誌編集にも携わっています。 クラシックカーとアンティークは蒐集家でインテリアは専門分野、 旅行、ドライブは趣味で世界中を駆け回っています。
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