
近ごろ映画ファンの間で人気なのが、「発声上映」や「応援上映」といった特別なスタイルの映画上映。時には満員でチケットが取れないこともあるほどです。
会場の一体感やライブ感も人気の理由なのですが、実は日本では遥か昔から、ライブ感たっぷりの上映スタイルがありました。
その名も「活弁付き上映」。この記事では、活弁の歴史や魅力などについて、詳しくご紹介します!
そもそも活弁ってなに?
日本で初めて映画が上映されたのは、1896年(明治29年)のこと。当時の映画は活動写真と呼ばれ、モノクロで音声もなし。セリフや状況説明は字幕で行っていました。ですが、当時は日本人の外国文化の知識も少なかった時代。映画を理解するには、説明をする人が必要でした。
そこで、活躍したのが「活動弁士」略して「活弁」と呼ばれる映画解説者たち。当時の映画館では、弁士よる語りと楽器の生演奏がついた上映が一般的だったそうです。
彼らは、映画の説明や解説をするだけではなく、変幻自在にセリフを入れ、映画に命を吹き込みました。同じ映画でも、弁士によって全く印象が違い、その映画を活かすも殺すも腕次第。人々は人気のある弁士のいる映画館へ殺到。映画館同士で、激しい弁士の引き抜き合戦が繰り広げられたほどです。
全盛期の昭和5~6年ころには、なんと日本には約8000人もの弁士が。トップクラスの弁士は、人気俳優に匹敵するギャラをもらっていた人もいるそうで、人気スターさながらです。しかし、時代は流れ、音声のついたトーキー映画が現れると、多くの弁士が仕事を失ってしまったといいます。
普通の映画とは一味違う?活弁の3つの魅力
【1】とにかくライブ感がすごい
活弁の一番の魅力はライブ感。活動弁士は観客の反応を見ながらアドリブを入れることも多く、通常の上映と比べて、そのとき限りの特別感があります。会場全体が一体となって大盛り上がりすることも。
以前、『猛進ロイド』というコメディ映画を活弁付きで見た時は、弁士の熱演もあって会場は爆笑の渦に。上映終了後は、笑い過ぎで疲れ切っている人もちらほらいました。家でのDVD鑑賞や普通の上映では味わえないあの感覚は、活弁ならでは。ライブ会場にいるかのような高揚感があります。一度味わったら、くせになること間違いありません。
【2】弁士によって全く違う印象に
字幕が付いておりセリフはある程度決まっていますが、どんな声やテンポで語るかは弁士によって違います。クールな登場人物がいたとして、冷たいイメージを徹底するのか、それとも隠れた優しさを垣間見せるのかで全く異なる印象に。そういった作品の解釈も弁士の腕の見せどころです。
私は溝口健二の『瀧の白糸』という作品を違う弁士で2回観たのですが、主人公である女水芸人の印象はまるで違いました。1回目に観た時の弁士は、キリッとしたきっぷのいい女性を。2回目に観た時の弁士は、凛としつつも可愛らしい女性を演じていたのです。しかもどちらも甲乙つけがたいほど魅力的。活弁が作品に与える影響の大きさにびっくりしました。
【3】弁士の技がすごい
活弁では通常、全ての登場人物のセリフを一人で語ります。そのため、先ほどまで、鈴の鳴るような声で語っていたかと思えば、どすの利いた声に早変わりなんてことも。その切り替えの早さと語り分けの素晴らしさには、思わず目を見張るほどです。コメディ映画などで、キャラクター同士がまくし立てるように掛け合っているシーンなどはまさに圧巻。プロの技を堪能できます。
また、弁士だけではなく伴奏にも要注目。美しい音色で映画を盛り上げてくれます。通常のコンサートと違い間近で演奏を見られるのですが、手の動きが本当にすごいです。
活弁士ってどんな人がいるの?
現在、日本の活弁士は約10人前後といわれています。現役最高齢といわれている井上陽一さん、大河ドラマ『いだてん』で活弁を披露した坂本頼光さんなど、個性豊かなすご腕弁士がいます。
先ほど、弁士による印象の違いについてお伝えしましたが、逆にお気に入りの弁士の上映を追っていくのもおすすめ。作品ごとの語りの違いや、同じ作品の上映を重ねることによる変化などを楽しめます。一度として同じ上映はない、それが活弁の魅力です。
活弁はどこで見られるの?
活弁付き上映はイベントなどの特別な機会に行われることが多く、特に地方ではなかなか見ることができません。こまめにチェックして、チャンスを逃さないようにしましょう。
首都圏では、映画館でコンスタントに活弁上映が行われています。特に「シネマート新宿」や「川越スカラ座」では、定期的に上映を行っていて、場合によってはチケットが売り切れるほどの人気です。また、「マツダ映画社」による無声映画鑑賞会も、月1回ペースで開催されているのでチェックしてみてください。
活弁を題材にした映画が公開!
魅力いっぱいの活弁ですが、2019年12月に活弁をテーマにした映画が公開されます。タイトルは『カツベン!』。『それでも僕はやっていない』『Shall we ダンス?』などで有名な周防正行監督がメガホンをとり、今をときめく俳優・成田凌が主演の注目作。
もしかしたら、活弁ブームが再来。チケットは入手困難に…。なんて展開もあるかも。ぜひ今のうちに活弁を体感してみてください!

川瀬ゆう

最新記事 by 川瀬ゆう (全て見る)
- ライブ感あふれる映画体験!活弁のすすめ - 2019年8月5日
- 瀬戸内海に浮かぶ「うさぎ島」でまさかの事態に!大久野島旅行記 - 2019年6月15日
- まるでハロウィンのような七夕。「ローソクもらい」の思い出 - 2019年5月8日