江戸時代の財布事情:現代のコンパクト財布のルーツと粋な袋物文化

江戸時代の財布事情:現代のコンパクト財布のルーツを探る
現代の私たちが毎日持ち歩いている財布ですが、時代劇などでよく目にする江戸時代の人々は、一体どのようなものを財布として使っていたのでしょうか。実は、現在一般的な二つ折り財布や長財布はもちろん、和風のイメージが強い「がま口(西洋の口金を取り入れた財布)」も、日本に広く普及したのは明治時代以降のことであり、江戸時代において一般的なものではありませんでした。
江戸時代には、貨幣(寛永通宝などの硬貨や、各藩が独自に発行した藩札)の種類や用途に合わせて、実に多様でユニークな袋物が財布として使い分けられていました。代表的な名称と種類をいくつかご紹介します。
1. 巾着(きんちゃく)
もっとも一般的に使われていた小袋状の財布です。紐で口を絞る形状で、布や革を用いて作られました。当時は専門の「巾着師」という職人も存在し、中を二つに仕切って小銭と薬・お守りを分けて入れられる「女夫巾着(めおときんちゃく)」なども作られ、人々の生活に密着した実用品として愛用されていました。
2. 紙入れ(かみいれ)
二つ折りや三つ折りの構造を持った入れ物で、現代のお札入れに近い存在です。元々は鼻紙(現代のティッシュペーパー)や薬を入れていた「鼻紙袋」から発展したとされています。江戸時代には、紙幣の役割を果たした藩札や手形を持ち歩く商人に重宝されました。
3. 早道(はやみち)
旅人や、手紙・荷物を運ぶ「飛脚」によく使われた、現代の小銭入れやコンパクト財布に近い革製のアイテムです。形状にはいくつかのバリエーションがありましたが、代表的なものの一つとして、上部の筒状の部分には一分銀などの高額なものを入れ、下部のフタ付き部分には小銭や薬を入れて、帯に挟んだり紐でくくったりして携帯するスタイルが知られています。現代の革製品でも一部の熟練職人が用いている「菊寄せ(コーナー部分の革を細かくひだ状に寄せて処理する技法)」などの高度な技法が、江戸時代後期の早道に用いられている現存品も確認されています。
4. 胴乱(どうらん)
主に裕福な商人などが、印籠のように帯に提げて(吊るして)持ち歩いた、大きめの小物入れ・財布です。小銭のほかに印鑑や薬なども入れられ、かなりの収納力がありました。上方落語の演目「胴乱の幸助」にもその名が登場するように、当時の町人文化に深く根付いていたことがうかがえます。
実用品からファッションアイテムへ
このように、江戸時代の人々はお金を持ち歩く手段として、単なる袋以上の工夫を凝らしていました。粋な柄の布や上質な鹿革などを使用し、実用性だけでなく「自分をどう見せるか」というファッションアイテムとしての役割も持っていたのです。現代のキャッシュレス時代においてミニ財布やスマホショルダーが流行していますが、必要最小限のものをコンパクトに身につける「早道」や「巾着」のスタイルは、どこか現代の身軽なお出かけスタイルに通じるものがありますね。