布を織る機械がパソコンの先祖?ジョゼフ・マリー・ジャカールが発明した「ジャカード織機」の秘密

私たちが毎日着ている洋服や、美しい模様が描かれたカーテン。そして、今あなたがこの記事を読むために使っているスマートフォンやパソコン。
まったく関係がないように見えるこのふたつですが、実は歴史をさかのぼると、あるひとつの偉大な発明でつながっています。
それは、1800年代の初めにフランスで生まれた「ジャカード織機」という機械です。布を織る機械が、なぜ現代のコンピュータと関係しているのでしょうか。今回は、世界を変えた天才発明家ジョゼフ・マリー・ジャカールと、彼が生み出した魔法のような織機の秘密に迫ります。
糸と穴あきカードが描く魔法の模様
布にはいろいろな種類がありますが、特に花柄などの複雑な模様を織り込んだ布は、昔からとても価値のあるものでした。
ジャカード織機が発明される前、模様のある布を作るのは気の遠くなるような作業でした。縦の糸を一本一本、設計図に合わせて手作業で引っ張り上げ、そこに横の糸を通していく必要があったからです。機織りをする職人の他に、糸を引っ張り上げる専門の子ども(ドローボーイと呼ばれました)が織機の上に登って作業をしており、たいへんな重労働でした。
しかし、ジャカード織機はこの常識を覆しました。厚紙に穴を開けた「パンチカード」と呼ばれるカードを機械に読み込ませるだけで、自動的に美しい模様が織り上がるようになったのです。カードを変えれば、あっという間に違う模様を織ることもできました。
職人の苦労を救いたい!ジョゼフ・マリー・ジャカールの挑戦
この画期的な機械を発明したのが、フランスの絹織物の街、リヨンで生まれたジョゼフ・マリー・ジャカールです。
彼自身も織物職人の家庭に育ちました。過酷な環境で働く職人や子どもたちの姿を身近で見てきたジャカールは、「なんとかして、もっと楽に、正確に布を織ることはできないか」と考え続けました。
彼はゼロからすべてを発明したわけではありません。過去の発明家たちが作った「穴あきの紙の帯を使うアイデア」や「自動で動くカラクリの技術」などを熱心に研究し、それらを組み合わせて一台の機械に仕上げたのです。1804年頃に実用的な形で発表されたこの織機は、機械に仕事を奪われると恐れた職人たちから激しい抵抗を受けるなどの紆余曲折を経ながらも、やがて世界中の工場へと広まり、織物産業に大革命を起こしました。
穴があるか、ないか。たったふたつの合図が織りなす芸術
では、ただの「穴が空いた厚紙」が、どうして複雑な模様を作り出せるのでしょうか。
仕組みはとてもシンプルです。ジャカード織機には、糸を持ち上げるための細い針がたくさんついています。そこにパンチカードを押し当てます。
カードに「穴が空いている場所」は、針が通り抜けて糸が持ち上がります。
カードに「穴が空いていない場所」は、針がぶつかって糸は持ち上がりません。
つまり、機械にとっては「穴がある(イエス)」か「穴がない(ノー)」かのふたつの合図しかありません。しかし、このイエスとノーの組み合わせが連なることで、どんなに複雑で美しい模様の指示も出せるのです。オルゴールの出っ張りが音を鳴らす仕組みに少し似ていますね。
織機からパソコンへ受け継がれた偉大なバトン
「穴があるか、ないか」で機械に指示を出す。これを聞いて、何か思い当たりませんか。
そうです。現代のコンピュータの仕組みと同じです。コンピュータも、すべての情報を「1」と「0」のふたつの数字だけで処理しています。
ジャカード織機が発明された数十年後、イギリスの数学者チャールズ・バベッジは、計算をする機械(解析機関)の設計にパンチカードの仕組みを取り入れました。また、「世界初のプログラマー」とも称されるエイダ・ラブレスは、この機械について「ジャカード織機が花や葉の模様を織るように、代数の模様を織るのだ」という趣旨の美しい言葉を残したと伝えられています。
バベッジがジャカード織機から直接ひらめきを得たのかどうかや、エイダの言葉の正確な意図については諸説ありますが、当時の知識人たちがこの織機の仕組みに大きな可能性を見出していたことは間違いありません。
のちに誕生した初期のコンピュータたちも、キーボードの代わりにパンチカードを使ってデータを読み込ませていました。ジャカードが布を織るために作った仕組みは、そのまま「プログラム」という概念へと成長し、現在のデジタル社会の土台となったのです。
日常のひらめきが未来の扉を開く
目の前の職人たちを助けたいという思いから生まれたジャカード織機。ジョゼフ・マリー・ジャカール自身も、自分の発明が約200年後の宇宙開発や人工知能にまでつながっていくとは、想像もしていなかったことでしょう。
今度、美しい模様の織物や、洋服のタグに「ジャカード織り」という言葉を見つけたら、少しだけその歴史に思いを馳せてみてください。
そして、あなたの身の回りにあるささいな困りごとや「もっとこうなればいいのに」というアイデアも、もしかすると遠い未来の新しいテクノロジーを生み出す最初の種になるのかもしれません。