正解のない世界を楽しむ!子どもの創造性を育む「アート」の遊び

最近、教育の現場で「アート思考」という言葉を耳にする機会が増えてきました。科学・技術・工学・芸術・数学を横断的に学ぶ「STEAM教育」が推進されるなか、子どもの未来を切りひらく鍵として熱い注目を集めています。
変化が激しく、誰かが用意した「正解」があっという間に色あせてしまう現代。いま本当に必要とされているのは、与えられた問題を要領よく解く力にとどまらず、自ら問いを見つけ出し、自分だけの答えを創り出す力です。今回は、子どものワクワクする創造性をグングン刺激する、ご家庭で今日からすぐに試せるアート思考の遊びをご紹介します。
自分の内側から始まる「アート思考」
アート思考とは、アーティストが作品を生み出すときの思考プロセスを、日々の暮らしや学びに落とし込んだアプローチです。
よく似た言葉に「デザイン思考」がありますが、この2つはアイデアの出発点が大きく異なります。デザイン思考が「誰かの困りごとを解決するため」に外側のニーズから形を探るのに対し、アート思考は「自分自身の内側にある興味や疑問」からスタートします。(※注1)
たとえば真っ白な画用紙を前にしたとき、「みんなに喜ばれる絵を描こう」と考えるのがデザイン思考的なアプローチだとすれば、「自分はいま何を感じ、何を表現したいのだろう?」と自らの心の声にじっくり耳を澄ませるのがアート思考的なアプローチです。自分の「好き!」や「なぜ?」という純粋な衝動を何よりも大切にし、常識の枠組みを超えた新しい視点を見つけ出すことこそが、アート思考ならではの醍醐味といえます。
日常の枠を飛び越えるクリエイティブな遊び
アート思考をご家庭で育むのに、特別な道具や高価な画材は一切いりません。身の回りにある身近なものをフル活用して、「正解のない自由な世界」を思いきり楽しみましょう。
ひとつめの遊びは「ガラクタ・オブジェ作り」です。トイレットペーパーの芯や空き箱、ペットボトルのキャップなど、普段なら捨ててしまうような廃材をたっぷり集めてみてください。「車」や「おうち」といった完成形をあらかじめ決めずに、心の赴くままテープや接着剤でつなぎ合わせていきます。大人から見れば不思議なオブジェも、子どもにとってはひらめきと大発見の結晶です。
ふたつめは「色なきお絵かき」です。絵の具やクレヨンの代わりに、公園で拾った落ち葉や土、キッチンにあるコーヒーの粉や野菜の切れ端を使って、紙の上に色や模様を写し取っていきます。「葉っぱをこすったら鮮やかな緑色がついた!」「コーヒーの粉ってすごくいい匂いがする」といった五感を通じたリアルな発見が、子どもの探求心を刺激します。
みっつめは「もしも・ストーリーテリング」という言葉の対話遊びです。お散歩の途中や食卓を囲みながら、「もしも空がぜんぶ緑色だったらどうなるかな?」「もしも犬が言葉を話せたら、最初に何を言うと思う?」と投げかけてみましょう。現実の枠組みを軽やかに飛び越え、空想の世界をどこまでも広げていく対話が、しなやかで柔軟な思考力を鍛えてくれます。
創造性を引き出す大人の声かけとマインドセット
アート思考の遊びにおいて、大人の関わり方はとても大きな役割を持ちます。子どもが作品を仕上げたとき、私たちはつい「上手だね」「きれいだね」と結果を評価してしまいがちです。しかしアート思考を伸ばすためには、仕上がりそのものよりも、そこに至るプロセスや子どもの内面に寄り添う声かけが効果的です。
「ここは、どうしてこの色を選んだの?」「どんな気持ちを込めて作ったのかな?」と、作品の背景にある子どもの世界に関心を寄せてみてください。発達心理学者レフ・ヴィゴツキーの理論によれば、他者とのコミュニケーションである「外言」を通して、自分自身の思考を形作る「内言」が豊かに発達していきます。大人の適切な問いかけが、子どもの「発達の最近接領域」をぐっと引き上げる足場となるのです。問いかけを通じて自分の感情や意図を言語化する経験を重ねることで、子どもは自分の考えに対して確かな自信を持つようになります。
また、遊びの途中で思い通りにいかなかったり、失敗のように見えるアクシデントが起きたりするのも貴重なプロセスです。絵の具がこぼれて予期せぬ模様が広がってしまったら、「汚れちゃったね」と残念がるのではなく、「面白い模様ができたね! これは何に見えるかな?」とポジティブな発見へと転換してみましょう。スタンフォード大学の心理学者キャロル・S・ドゥエック氏が提唱する「グロースマインドセット(成長マインドセット)」の研究が示す通り、人の能力は努力や学びによってどこまでも伸ばせると信じることで、失敗を前向きな学習のチャンスと捉えられるようになります。大人が面白がる姿勢を見せることで、子どもは失敗を恐れることなく、新しい挑戦へと果敢に踏み出せるようになります。
未知を楽しむ力が未来を創る
アート思考の遊びを通じて育まれるのは、単に絵が上手になったり工作が得意になったりすることだけではありません。「自分はこう感じる」「これが大好きだ」というブレない自分軸を持ち、それをのびのびと世界へ表現していく力です。ここで培われる豊かな自己肯定感と尽きない探求心は、子どもたちがこれからどんな未来を歩んでいくとしても、一生モノの力強い土台となります。
正解のない遊びに、最初は少し戸惑うこともあるかもしれません。しかし、子どもと一緒に「なぜ?」「面白い!」を分かち合ううちに、大人自身の凝り固まったものの見方も心地よくほどけていくはずです。ぜひ身近な素材を広げて、親子で新しい価値と驚きを生み出すクリエイティブな時間を楽しんでみてください。
補足事項
- ※注1: デザイン思考には「共感(Empathize)」というユーザーの内面に深く入り込むプロセスが含まれており、単純な外側からの課題解決にとどまりません。また、アート思考の定義も論者によって異なり、末木・秋田らの定義のほか、山口周氏(著書『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』等)が提唱するような、ビジネスにおける個人の審美眼の涵養を強調する文脈も存在します。
主な参考資料
- キャロル・S・ドゥエック『マインドセット「やればできる! 」の研究』
- レフ・ヴィゴツキー『思考と言語』
- 山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか 経営における「アート」と「サイエンス」』
- 文部科学省「STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進」