日本人とフランス人の美意識の違いと共通点

日本の「常識」はフランスの「非常識」!?

所違えば文化や習慣も違ってきますが、「美しさ」「醜さ」の概念も異なるケースがあるようです。今回は私が長く住んでいるフランスの、意外な美意識、美を意識した習慣をご紹介したいと思います。日本人が「常識」と考える習慣がフランスでは「非常識」と映る美の法則があるようです。

美しくないわ

昔パリに住み始めた頃、賃貸アパルトマンを探す間、フランス人の友人のお母様のアパルトマンに1ヵ月間滞在させていただきました。シャンゼリゼ通りの裏手にある高級アパルトマンで、アンティークな高級家具が配された豪華なサロン、銀器のコレクションがまばゆい食器棚、私の部屋にはヴィクトル・ユゴーの初版本が飾られていました。
物腰の柔らかいいかにもブルジョワジーなマダムは、ご主人を亡くされて1人暮らし。背の高い彼女は、いつも私の目線で会話をしてくれ、ブランド物のパジャマを貸してくれたり、私のために家族を集めて歓迎パーティしてくれるなど、真の品位あるとても親切な方でした。
いかにも貴族の館風のアパルトマンで気になったのが、どの部屋にも日本ではよく見かける「ゴミ箱」「ティッシュ箱」がないということ。そこで、自分の部屋には机の下にしっかりした紙袋を置いて、その中にナイロン袋を入れてゴミ箱として代用していたのですが、ある日マダムがそれを見つけて「これは美しくないわ」と自家製ゴミ箱を撤去してしまいました。いえ、マダム、「それは実用的でないわ」とは反論できず、マダムの法則に従いました。
実はこれ、後でフランスに住むようになってわかったことですが、フランスの家は全てこの「法則」が当てはまるのです。ゴミ箱は台所のみ、それも棚の中に隠してあり、ティッシュではなくキッチンペーパーがやはり台所のみに置かれているのが一般です。理由は「美しくないから」。
いや、実用的でないでしょ。それに部屋にゴミ箱があった方が逐一ゴミを捨てやすいし、ティッシュがあれば埃やゴミを片付けやすいし、却って清潔でしょ。という日本人的衛生理論はフランスでは通用しないようです。この不可思議な法則の理由は、フランスらしい「美の法則」にあったのです。

見せる文化

フランスのパリと言えばカフェ文化が栄えた町として有名ですが、発祥の地は実はウィーンで、本来の目的・定義は新聞や雑誌を読んだり、情報交換したり、思い思いの流儀で時間を過ごせる場所であるのです。しかし、フランスやイタリアなどのラテン国では、夏場は日も長く気候もいいため、店先にオープンスペースを設け道行く人々を眺められる楽しみも加わりました。
それこそがフランスなどラテン国独自のカフェ文化を発展させたのです。フランスやイタリアでは、オープンスタイルのカフェは「自分を見せる」「自分を見てもらう」場所でもあるのです。愛・アムールが優先するラテン国では、「女性を愛でる・褒める・声をかける」のは日常の習慣でもあり最低限の礼儀です。オープンカフェは道行く人達に「魅力的な自分を見せてあげる」場を提供しているのです。
人を直視することが無礼と考えられる日本と違い、「(魅力的な人を)見る」ことは賛辞であり、「見られること」は誇りとなるのです。それ故に見せる側のマナーとして、醜いものは見せない配慮は欠かせないのです。上記マダムのゴミ箱撤去の件は、ゲストである私に汚い物を見せてはいけない、見せるのは我が家の恥、という配慮だったのです。

美しい食事

フランスで暮らしていると、貴族から一般人までいろいろな種類の家庭の食事に招かれますが、例外なく共通しているのは美しいテーブルセッティングです。テーブルにはテーブルクロスを敷き、花や置物を飾り、食器や布ナプキンを予め揃えて配置して客を迎えます。
日本で自宅での最高のおもてなしと言えば、豪勢な手作り料理の皿がテーブル一面に並べられる壮観な光景が目に浮かびますが、フランスでは最初にテーブルセッティングをして、「さてこれからどんな料理が出てくるのかな」という期待感を演出します。レストランでは普通にある光景ですが、フランスでは一般家庭の日常の食事でさえ、このセッティングは習慣的に行われているのです。
フランス人夫の実家に滞在中毎日食事する時も、朝昼晩毎に各席にランチョンマットを敷き、ワイングラスとウォーターグラスを右上に、ナイフとフォークは両脇に、各ランチョンマットには大皿を置いてその上に布ナプキンを置く、というのが定番です。これは親しいフランス人の家で家族的な普通の食事をする時も、同じフォーマットでテーブルが飾られます。それは日常の食卓習慣で決して特別なことではないのです。
フランスの食事については、食器、食事スタイル、マナー、料理など日本とは異なる「美」を意識した文化が根付いていますので、また別の機会に詳しくご紹介できればと思います。

江戸っ子とパリジャンの美意識の共通点

人の美意識は個人差もあり、時代、地域、社会、環境などによっても異なり、西欧と日本とでは真逆になることさえあります。ただ、江戸っ子が持つ「粋」はパリジャンにも共通する「美意識」ではないかと思います。

粋を「すい」と読めば洗練された美、「いき」と読めば内面的な美を表すと言われますが、真の美は外見ばかりでなく、自信と誇りが醸し出す立ち居振る舞い、教養からにじみ出るセンスの良さ、心の豊かさ、そんな要素が混ざり合って初めて「粋」と言われる美意識が育つのです。

江戸っ子とパリジャンに共通するのは、共に都のお膝元で町人&職人文化の中で育まれてきた人となり、という生活環境の背景があります。それ故、お洒落で流行には敏感、見栄っ張りで細かい事を気にしない、頑固な意地っ張りで主張は曲げない、人情に厚く正義感が強い、といった共通点が数多く見つかります。

彼らが口を揃えて言う「美意識」とは、人生を楽しむ術を知りそれを磨くことに尽きます。それは生活に楽しみと活力を与える、必要不可欠な嗜み(たしなみ)と言っても過言ではないでしょう。

もちろん人それぞれの個性がありますから、単純に日本人、フランス人とひと括りにはできませんが、文化や風習の違いというのは間違いなく存在します。世界中の様々な異なる文化を尊重した上で、違いや共通点を探してみると、常識と思っていたことも改めて考えさせられることが少なくありません。それが人生をより豊かに、視野を広げていくきっかけにもなるのではないでしょうか。

 

この記事を書いた人

エリカ・ド・ラ・シャルモント

英国在住後、フランスのパリに在住。 公職以外に、翻訳・通訳・コーディネーター・ライターの他、 不動産業も手掛け、フランスの雑誌編集にも携わっています。 クラシックカーとアンティークは蒐集家でインテリアは専門分野、 旅行、ドライブは趣味で世界中を駆け回っています。

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