マダムとマドモワゼルの使い分けに意外な常識!

日本を訪れる外国人は年々急増しており、英語を話す機会も増えてきています。例えば外国人女性に話しかける時、どんな呼称がふさわしく、失礼に当たらないのでしょうか?また、よく耳にするフランス語のマダムとマドモワゼルの使い分けには日本人が知らない意外な常識があるのをご存知ですか?そんな呼称にまつわる秘密を紐解いてまいりましょう。

英語圏の人も日常使いのマダム

英語での女性呼称はミセス=既婚、ミス=未婚、ミズ=既婚&未婚と使い分けることは知られていますが、相手に呼びかける場合はこれらの呼称を単独で使うことはできません。スミス夫人を「ミセス・スミス」と呼ぶことがあっても「ミセス」だけで呼びかけるのは一般ではありません。単独ではMadamとその省略形Ma’amがよく使われます。ただ話し言葉で社会階層がわかる英国では、中上流階層はMadam/マダムを好んで使う傾向があります。

一方Miss/ミスは日本では今や死語の和製英語「オールドミス」などから、未婚の強い女性がイメージされがちですが、元々「家の女主人」を表すMistress/ミストレスの短縮形なので、そのイメージが根付いたのかもしれません。美人コンテストの「ミスXXX」でも使われるように、若さと美貌を象徴する女性への賛辞として、年齢に関係なく未婚女性の呼称として使われています。

臨機応変なマダムの使い方

マダムは元々フランス語で、Ma dame=My lady「私の貴婦人」という2つの単語から成り、昔は貴族や王室などの上流婦人を指す呼称として使われていました。その最たるものがNotre dame/ノートルダム「我らの貴婦人=聖母マリア」というキリストの母の敬称になります。

そうした由来から、マダムには女性への敬意が込められ、フランスでは既婚・未婚・離婚・寡婦に関係なく融通が利く敬称として、成人女性全般に対して広く使われています。

またフランスでは、未成年や未婚の若い女性であっても、本人が大人っぽくみられたいと思っている女性に対しては、相手の意向に敬意を表して、マダムと呼ぶこともあります。若さに美徳や価値を見出しがちな日本と異なり、欧米では成熟した大人の女性の価値が高く、女の子は早く年をとって「大人の女性」になりたがります。大人の女性としての生き方に憧れるのです。マダムと呼ばれて喜びこそすれ、「失礼」と感じる女性はいないでしょう。日本なら「おばさん扱いされた」と腹を立てそうなところですが。

なお、集合女性に対する呼びかけでMadameがDameと省略されることもあります。
例:Messieurs et Dames/メッシュー・エ・ダム「旦那様、ご婦人方」
英語のLadies and Gentlemen/レディース・アンド・ジェントルメンに当たるわけですが、英語ではレディーファーストでLadiesを先に持ってきているのに、騎士道のフランスでDamesが後に来ているのは不思議な一例です。

成人女性にマドモワゼルと呼ぶのは失礼?

Mademoiselle/マドモワゼルもまた、Maとdemoiselleが一つになった単語で、demoiselleは貴族子女を表しています。つまり「お嬢さん」ということになりますが、成人女性でもマドモワゼルと呼ばれて失礼と感じるかどうかはその人の受け止め方次第、またTPOによります。

年配の寡婦に対してはマドモワゼル呼称になりますが、それを失礼と感じるご婦人は少ないようです。年をとったおばあちゃまになるほど、親しみを込めてMademoiselleと呼ばれる場面をよく目にします。ただ、寡婦に使って問題ないからといって、離婚女性に対してMademoiselleを使うのは失礼にあたります。離婚の多いフランスならではの気遣いですが、やはり婚姻に関係なくマダムを使うのが無難です。

たまに、お店やカフェで店員から「マドモワゼル」と声かけられることがありますが、これは失礼なのではなくいわゆる「接客用語」で、女性客を持ち上げてくれているのです。

ただ、マドモワゼルは既婚でも「売り子、使用人、ベビーシッター」といった労働者階級の女性に対する呼称として使われていたこともあり、1970年代のフェミニズム全盛期以降、女性だけに2種類の呼称があるのは差別だとして、2012年マドモワゼルという言葉は廃止となりました。

といっても、今でも普通に使われており、特に演劇界においては、伝統的に女優は既婚でもマドモワゼルと呼ぶのが通例となっています。

世界共通語のマダム呼称

最近メディアなどでよく耳にするようになった「マダム」ですが、世界で無難に使える公用語と言ってもいいでしょう。日本語の「奥様」「お嬢様」もまた、かつては公家・大名な上流階級の妻・娘の敬称だったのが、後に武家・富商などの妻・娘にも使われてきた敬称です。元々高貴な女性を意味するという点ではマダムやマドモワゼルと共通するものがあります。どんな呼称も、呼び手側に敬意があれば、心地よく耳に響くものです。マダム、マドモワゼル、奥様、お嬢様、皆さんはどの呼称で呼ばれたいですか?

 

 

この記事を書いた人

エリカ・ド・ラ・シャルモント

英国在住後、フランスのパリに在住。 公職以外に、翻訳・通訳・コーディネーター・ライターの他、 不動産業も手掛け、フランスの雑誌編集にも携わっています。 クラシックカーとアンティークは蒐集家でインテリアは専門分野、 旅行、ドライブは趣味で世界中を駆け回っています。

この投稿をシェアする



新着順 →


0件のコメント

コメントを残す

コメントは承認され次第、表示されます。