性別と親密さで変わるフランス語の使い分け「恋人の呼び方」
マダムとマドモワゼルの使い分けに引き続き、フランス語の呼称シリーズ第2弾です。近年メディアでも頻繁に登場し、日常会話の中でも使う機会が多くなったフランス語ですが、今回は恋人を表すフランス語、特に親しさの度合いによって異なる使い分けをご紹介したいと思います。
間違ったフランス語の恋人呼称
フランス語で「恋人」というと、アマンを思い浮かべる人が多いようです。マルグリット・デュラスのベストセラーが映画化されて大ヒットした「愛人ラマン/L’Amant」に由来するフランス語ですが、実はアマンは恋人ではなく「愛人」であり、また男性の愛人であって、女性については「Amante/アマント」になるのです。
これはフランス語は英語と違って、男性・女性の性別が名詞に付与されているためで、その区別に不慣れな日本人には、間違って覚えてしまうフランス語も少なくないのです。
例えば、昭和にヒットした大和和紀の少女漫画「モンシェリCoco」は、ココ・シャネルを彷彿させる主人公や設定で大人気を博しましたが、実はモンシェリというフランス語は文法間違いです。シェリ/Chériは「大切な人=恋人」と言う意味で、男女どちらにも使われますが、男性ならMon chéri、女性ならMa chérieとなり、代名詞と名詞それぞれに性別表記が異なるのです。この漫画の主人公Cocoは女性なので、正しいタイトルは「マシェリCoco」になるのです。
どちらも大した違いではない?いえいえ、間違うと大変な誤解を与えてしまいます。恋人をアマンと呼べば愛人扱いということになりますし、「僕の恋人」をモンシェリなどと紹介すれば、同姓の愛人・恋人と勘違いされてしまいます。フランス語を覚えたい人は、単語の性区別をしっかり把握しておいた方がいいでしょう。
親しさの度合いで使い分ける恋人呼称
日本ではお付き合いが始まれば、結婚するまで「カレ・カノジョ」で通せます。一方、フランス語は友人から恋人まで関係のグラデーションが幅広く、呼称の区別が多様に存在し、まるで複雑なフランス人の恋愛バロメーターを表しているかのようです。
例えば「友人」一つをとっても以下のような区別があります。
1. ami(e)/アミ:
(1)広く友達全般に使います。
(2)単なる知り合い、というニュアンスよりはやや心理的なつながりが強く、
旧知の友、信頼する友といったニュアンスで使われます。
(3)これに不定冠詞のun、une(英語のa、anに相当)をつけて
un(e) ami(e)/アナミ・ユナミとすると、不特定性が強調され
その友人との間に心理的な距離を伴います。
(4)一方、これに所有形容詞のmon(私の)がつくと
mon ami(e)/モナミとなり、さらに親密さが増します。
(5)さらに特別な親密度を強調したい場合は
以下のような形容詞を伴って一般に使われています。
例:
meilleur(e) ami(e)/メイヤー・アミ「大親友」
ami(e) intime/アミ・アンティム「親しい友 → 親友」
ami(e) d’enfance/アミ・ダンファンス「幼友達」
(6)ami(e)にpetit(e)をつけてpetit(e) ami(e)/プティタミとすると、
これは列記とした「恋人」呼称に変わります。
この場合は、その語に前置するのが不定冠詞だろうと所有形容詞だろうと
恋愛感情を伴う「恋人=カレ・カノジョ」であることには変わりありません。
2.copain・copine/コパン・コピーヌ:
(1)プライベートな親近感が強調され、一緒に楽しむための友達、遊び友達
というニュアンスが加わります。
(2)同性間ではこの語は単なる遊び友達という意味で使いますが、
異性間では「カレ・カノジョ」の意味で使われる場合もあります。
特にmon、ma「私の」という所有形容詞と一緒に用いれば、
その可能性はかなり濃厚になります。
例:
mon copain
(同姓間)「俺のダチ」
(異性間)「私のカレ」
ma copine
(同姓間)「私の女友達」
(異性間)「俺のカノジョ」
(3)とはいえ、カレ・カノジョの関係を100%確定するものでもありません。
人によっては、mon、maで限定してもただの友達だったりすることもあります。
(4)copainのそんな曖昧さもあって、
「恋人」を表現する場合でも、petit(e) ami(e)の方が
圧倒的に信頼関係の結びつきの深い言い方になります。
(5)ちなみに、amiと違ってcopainにpetitがついても「恋人」の意味にはなりません。
petit copainは「恋人」を指しませんが、「小さい友達」といった、
本人より年下の幼い友達を指して言う場合はあります。
例えば、お爺さんが近所の仲のいい幼い子供を指して、
「僕のプチコパン」という言い方はします。
以上、一般に「友達」の意味で使われるami(e)、copain・copineだけ見ても、その用法は様々で、どちらも使い方、形容の仕方によっては「恋人」にも「友人」にも使えるということがわかります。
親密度の深い恋人呼称
カレ・カノジョを結婚を視野に入れている場合は、fiancé(e)/フィアンセを使うのが一般的です。結婚が決まっていなくてもこの語を使う場合は、かなり相手に入れ込んでいる、本気であることを第3者の前で強調する言い方になり、相手を尊重した表現になります。
また、結婚しない同棲カップルが多数を占めるフランスでは、一緒に住む恋人をpartenaire/パートナー、conjoint(e)コンジョワンと呼ぶこともあります。
恋人間では上記の用法が一般的ですが、英語のmy honey、my sweetなどに相当する、相手への呼びかけになる対人呼称(間投詞機能の二人称扱い)もフランス語には沢山あります。
例:(以下、対象が男性の場合ですが、monをmaにすれば対象が女性として使えます)
mon petit coeur/モン・プティ・キャー(僕の愛しい君)
mon chéri, ma chéri/モン・シェリ、マ・シェリ(同上)
mon chouchou/モン・シュシュ(僕の可愛い子ちゃん)
mon bébé/モン・ベベ(僕のベイビー)
これらの呼称は老若関係なく用いられ、恋愛感情でなくても親愛感情があれば家族間でも使われます。ある日かなり年配の老夫婦がパリ郊外の町を散歩中、ご主人が奥様の肩に手を寄せながら「mon petit coeur」と囁くのを見たことがあります。恋愛・結婚の形が多様なフランスでは、そのカップル呼称も多様に存在し、結婚すれば呼称もさらに広がりを見せます。おしゃれにフランス語で恋人を紹介する際は、その語法を間違えないよう、気を付けてお使い下さいね。
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